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レンツ・バルヨー/アレクサンダー・リム/ジェイソン・モンティノラ/ニックス・プノ/

カロイ・サンチェス

2664km -フィリピン現代作家5人展-

2016年9月3日(土)~9月15日(木) 

会 期:2016年9月3日(土) ~ 9月15日(木)

閉廊日:日・月曜日、開廊時間:12:00~19:00

レセプションパーティー:9月3日(土)18:00~

 

このたび YOD Gallery では、弊廊では初めての展示となるフィリピンのアーティストの現代作家5人展「2664km」を開催いたします。

国には歴史があり、その時々に社会全体としての信条、価値観、アイデンティティを形成し続けています。他者という枠の中で国はどのように集団としてのアイデンティティを描き出すのでしょうか。距離を越え、見たこともない場所へ辿り着くとき、私達はどんな反応を受け、環境的刺激を受け、そしてそれは私達の世界観にどのように影響を与えるのでしょうか。

2664kmは若手フィリピン現代作家5名によるグループ展です。タイトル「2664km」とはマニラと本グループ展開催地大阪の実際の距離を表しています。本展では距離と相対性という概念によりフィリピンと日本の文化、伝統、そして芸術実践における類似性や相違性がどのように明らかになるかを考察し、隣国である二国間の文化や伝統を平和的かつ創造的な方法で繋いでいくための観察と交流の機会になればと考えます。

 同じ東アジア地区に位置していながらフィリピンと日本の間には明らかな違いがいくつか存在します。例として、フィリピンは常に他のアジア諸国と植民地支配国の影響を色濃く受けてきたのに対し、日本は中国と(特にその言語において)いくつかの共通項を持ちながらも自由であったことがあります。フィリピンの人々は自らに影響を与える存在と自らのアイデンティティを結び付け、異なる文化を融合し、自らの文化と呼べる一つの美しい形へと変えることでアイデンティティを確立してきました。植民地支配以前の自分たちのものでは無かった祝祭日を祝い、新たな文化や生活様式を受け入れ、新たな伝統をスタートし、そしてこれらすべてを混ぜ合わせフィリピン風に仕立て上げました。この他者の精神を受け入れ自分たちの習慣や風習になじむ形へと変化させる行為は19世紀初頭から始まりやがて一般的なものとなり、アートにおいても同様のことが言えます。 

本展の参加アーティスト5名の中、作風に西洋の影響が強くみられるのはジェイソン・モンティノラ(Jason Montinola)とアレクサンダー・リム(Alexander Lim)です。この二人は既存の有名なイタリア絵画を現代風にアレンジした絵と技法を用いています。超現実的で夢のような構図で描かれる特定のドラマと形状への興味は、親しみあるものと見知らぬものとの距離を埋め、見る者に絶え間ない好奇心を生じます。キャンバスに油絵具というクラシックな手法を用い、彼らは見る者にありのままをさらけ出す匿名の存在を描き出しています。彼らの作品には過去に生み出された作品をそのまま描いた明るいものもあれば、時に暗く、グロテスクで圧倒するようなものもあります。

潜在意識の暗闇を描き出し、人々の現実に入り込ませる――これはキャロイ・サンチェス(Kaloy Sancez)の作品にもみられる特徴ですが、彼の場合はより限定的アプローチをとっています。彼の作品は忘れられない記憶に対峙する際、きまって湧き上がる人々の心の底の欲望と不安に焦点を当てています。作品から放たれる感情はゆっくりと鳴る重低音のごとく人々の意識に忍び寄り、さらに多くの記憶をよみがえらせるかもしれません。

    かつて訪れた場所や愛着ある場所を思うとき、郷愁を感じることでしょう。こういった感覚は主観的なもので、知らない場所や環境であったとしても、周囲の数々のものをきっかけに引き起こされます。しかし、懐かしい昔を思い出す憂鬱の中にあっても、異なる環境に身を置くことは自らを豊かにする出会いにつながる、という新たな視点を持つことも可能です。日本はフィリピンの1時間先を行きます。人々が気にも留めないようなほんの些細なことかもしれませんが、芸術家のようなロマンチストにはとても大きな意味を持っています。時間は空間と共に存在する――そう科学は言います。この展覧会と展示作品にとっては、時が最も重要な役割を果たしており、中でも距離の関連概念としての時間を軸に作品を展開しているのがニックス・プノ(Nix Puno)とレンズ・バルヨー(Renz Baluyot)です。

美術作家であり音楽家でもあるニックス・プノ。ほとんどの時間アートとミュージックシーンに浸り、現代のメディアとポップカルチャーを直に感じ取る彼にとって、これらは自然な存在であり、当然のことながら彼の作品に影響を及ぼしています。彼の生み出す絵画は音もなく静止したスナップショットであり、常に移り変わるポップカルチャーとメディア、そしてそのかつての姿との関係性を捉えた記録です。彼の作品は、また一瞬一瞬がどのように携帯可能なデジタルメディアやインターネットでのピクセル、イイネ、そしてシェアという形態に変換されるのか、人々はどう反応するのか、といったことについての探求でもあります。

レンズ・バルヨーは自身の視覚言語を用い、時間がもたらす変化に取り組んでいます。彼の作品は環境が人々の意思、生活スタイルやコンディションを映し出す様、そして現代都市社会の構成要素が錆び、最終的に塵となる様を描き、問いかけています。近代都市に共通する都市衰退のイメージと存在は、そこに住む人々の生と死のサイクルを映し出します。腐敗は距離の指標、距離とは文化と歴史の距離であり、時と場所の距離です。そしてそれは、例えば従兄弟(親戚)の死のように、全ての人にとってさほど遠くはない存在なのです。

美術はそれぞれ異なる存在によりもたらされた創造であり、美術作品はそれを作り出す者の文化やアイデンティティを反映します。本展の作品が多様な視点を受け止め、フィリピンと日本という二つの国の類似点や相違点を集めまた検証できたなら、興味深い対話が生まれるでしょう。本展覧会をきっかけとして、アートが懸け橋となる。-美術の歴史が始まって以来、常にそうであったように。是非この機会にご高覧賜りますよう、お願い申し上げます。


 

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