竹内 紘三
『竹内紘三展 -reattempt-』
2019年9月21日(土) – 2019年10月12日(土)
開廊時間:12:00~19:00、休館日:日曜日
作家在廊日:9/28, 10/5,
会期中イベント:2019年9月21日(土) 18:00− レセプション
この度YOD Galleryでは、竹内紘三 (Kouzo Takeuchi, b.1977)による弊廊での初個展『reattempt』を開催します。
竹内は大阪芸術大学工芸学科陶芸コースを卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所にて、陶という素材と向き合い続けてきた。研究所卒業後の2005年から本格的に作家活動を始めた竹内は、構造に着目するというアカデミックなアプローチを伴う複雑な作品を創り出しており、陶で出来た彼の彫刻は、日本のみならず海外でも認知されつつある。
本展の「reattempt」、すなわち「再試行」という副題にも、その姿勢が表れていると言える。彼は、本展において改めて、「焼き物」、「磁器」という素材と、自身の技術と意匠で何が表現できるかについて深く考えを巡らせているのだ。オブジェとしての陶作品、器としての陶作品の両方を発表して来た竹内は、ここ数年、「美術、工芸、サブカルチャーなどあらゆるジャンルのボーダーレス化」を実感してきたと語る。「作品に他素材を組みこめば、改めて素材を認識できる。そういった意味では、今までの陶芸ややきものの表現の固定概念に当てはまらないものを作る事が出来るのではないだろうか」。そのように考えながら、竹内は挑戦を続けている。
本展では、その挑戦の延長として、空間全体を大胆に用いたインスタレーション展示が行われる。「磁器」「焼き物」という言葉から連想される機能美のイメージを覆すような唯美的なオブジェから、儚さ、強さ、美しさなど、様々な感情を呼び起こされることだろう。この機会に是非ご高覧ください。
「Time Crevasse in Ceramics-時空に屹立する、陶の存在」
作り手には、明確なコンセプトがまずあり、それを表現するための手段を強く意識して制作する者と、制作しながらコンセプトを見出し、作品として成立させようとする者とがいる。竹内紘三(1977年生まれ)は、どちらかというと前者のタイプだと思われるが、彼の代表作であり、鋳込みによる角パイプ状の白磁のパーツを接合し、焼成後、ハンマーを使って破壊することで仕上げる《Modern Remains(現代遺跡)》シリーズは、制作中のアクシデントから生まれたコンセプチュアルな白磁の造形である。角パイプ状のフォルムは、「工業規格品」を思わせ、これらが連なる様子は、幾何学的形態の繰り返しによって構築された現代建築のようにも見える。また、一定の角度から見ると、立方体の集積にも見え、ミニマルかつモダンな造形となっている。
しかし、一部が崩れていることで、その様相は一変する。そこには、経年変化による風化や崩壊、あるいは、廃墟、古代遺跡といった、いわゆる可視化された時間の流れや、時空を超えて存在するものが纏う圧倒的な存在感が、ふいに匂い立ってくるのである。偶然、発見した「破壊することで生まれる美しさ」は、意図的に「不完全の美」を創造するものである。《Modern Remains》を眺めていると、性質は恐らく異なるのだが、アメリカのミニマリスト、ソル・ルウィットの「Incomplete Open Cubes(不完全なキューブ)」のイメージを思わずにいられない。竹内はかつて、「六面体が究極のフォルムである」と感じたという。本来の竹内の美意識はこのあたりにあるのであろう。凜とした白磁の白の階調や、光と影が交錯し、空間の中に幻想的に浮かび上がる立体としての存在感は、年々、洗練されていき、近年は、そこにガラスや木、金属などの異素材を合わせるなど、新しい試みにも取り組んでいる。しかし、それは、やきものの素材感をよりいっそう引き立たせたり、見る者に改めて素材についての認識を促したりするための仕掛けであり、竹内の作品の根幹となるものは、いずれも徹頭徹尾「やきもの」であることには違いない。また、竹内には、やきものに対する従来の既成概念に揺さぶりをかけ、新たな衝撃を求めたいという野心もある。それでも、竹内の創り出す《Modern Remains》は、やきもの然とした造形というよりも、むしろ時空に堂々と屹立する美しい立体として、我々の眼前にその姿を現す。そこには、まるで「タイムクレヴァス(時の裂け目)」を覗いているような、ある種の刹那感が漂い、見る者の時間軸を狂わせる。
「タイムクレヴァス」という言葉は、横浜トリエンナーレ2008の総合ディレクターを務めた水沢勉氏が、パウル・ツェランの詩『息の折り返し』(1967年)から引用し、トリエンナーレの基本テーマに掲げたことで知られる。水沢氏がこのテーマを掲げた背景には、現代美術の著しいボーダーレス化があった。竹内が《Modern Remains》シリーズを手掛けるようになった2000年半ば以降は、その傾向がますます顕著となっていった時代でもある。今の時代に、やきもので制作するということ。それは、「陶芸でも彫刻でもなく、そのどちらでもあり得る、現代の造形としての強度が試される」ということである。今回の個展では、壁面や空間を最大限に活用して、かつてないインスタレーションを試みるという。これまで竹内が取り組んできたコンセプトと美意識が、どのように見る者に開かれるであろうか。五感を研ぎ澄まして、是非、現場で体感してほしい。
マルテル坂本牧子(兵庫陶芸美術館学芸員)